カンボジア節とロックの奇跡的な融合「Cambodian space project」

僕はタイに住んでいることもあり、タイの音楽を耳にすることはもちろん多いし、積極的にタイで良い音楽を探している。

結果いくつかお気に入りのミュージシャンはいるけど、このバンドの音楽を聴いた時「タイ人が出来なかったことが出来ている」ので驚いた。

現在のタイのヒットチャートには、ヒップホップや欧米のヒット曲を模倣したような曲も多くなってきたが、タイ人はロックが大好きだ。

それも結構スタンダードなアメリカンロック調が好きで、それを割とアイデアなしでタイロックに昇華していっている。

そういう状況なので、タイのロックを好んで聴くことはないけど、タイでは生バンドを入れている飲み屋が多い。またそういう飲み屋に行くのが一般的な若者が集まる人気店になるので、自然とタイロックを耳にする機会は多い。

ただこれといった曲やバンドと出会うことはなく、日本人的にオッと思うのは、タイ音楽全開の、日本でいうところの演歌や昭和歌謡みたいな曲ばっかりだ。

他方で、外国人がタイ人とバンドを組んで、タイ音楽と欧米音楽の融合みたいなものをやっているバンドもちょくちょく耳にする。

これも日本人的には新鮮な音楽なので、オッとなってしまうのだけど、数曲聴けばもうお腹いっぱいという状態になってしまう。

このバンドも初めはそういう類のものだろうと聴いていたが、特に2017年に発表された「Spaced Out In Wonderland」は素晴らしく、このバンドというか、ボーカルの虜にさせられた。

大量虐殺クメールルージュ政権によって一掃された、カンボジア音楽の黄金時代にあったロックの伝説を生き返らせるために、カンボジア人の歌手Channthy Kakと、オーストラリア人のJulien Poulsonがプノンペンで結成した「Cambodian Space Project(カンボジアン スペース プロジェクト)」がそれだ

ロックンロール、レアグルーヴ、ソウルをベースに、カンボジア音楽を融合させたバンドサウンドは、やはり日本人の耳には新鮮に響く。

ただサウンド面だけでいうとシンプルな構成なので、そこに斬新さやクリエイティブなものを感じることはないのだけれども、やはりこのバンドの凄さはボーカルChannthy Kakのカンボジア節と声の魅力にある。

どうにも彼女の声は耳から離れないし、それでいて飽きない。心地良さもあると思えばスリリングでもあり、セクシーだ。そこにカンボジア節が一気に東南アジアの空気に連れて行ってくれる。

タイでも過去に同じようにロックンロール、レアグルーヴ、ソウルをベースにした、ロックをやっているし、カンボジアでも同じで、それらの音源を聴くことはできる。

それがきっと黄金時代のロックなんだろうけど、このバンドは現在にありながら、その域を超えてしまっている。

方向性は違えど、日本でいうと江利チエミを連想させる存在だ。

しかし江利さんのボーカルは素晴らしい。。

ただ非常に残念なことに、「Cambobian Space Project(カンボジアン スペース プロジェクト)」のボーカルChannthy Kakは、2018年に不慮の事故によってなくなってしまった。

今でもこのCambobian Space Projectは続いているが、彼女なくしてどうしていくのか。新しいスターの発掘と彼らの検討に期待したい。